【活動報告】コミュニティカフェプロジェクト 第3回ワークショップ

2012年1月29〜30日、対話工房の「女川コミュニティカフェプロジェクト」における第3回のワークショップが開かれました。今回のレポートでは、そのようすをお知らせします。

 

ギャラリーづくり×つくる・きく・はなす 

文(1日目):内田伸一

 

ワークショップの場所は今回も、宮城県・女川町地域医療センター(旧女川町立病院)前の仮設コミュニティスペース「おちゃっこクラブ」。このお店は、プレファブの仮設住宅を使った町民施設が並ぶ一棟の中にあります(ちなみにお隣は歯医者さんと薬局)。この場所の人気メニューになったソフトクリームのオブジェと、手作りの看板が目印です。

 

第1回ワークショップでは、この「おちゃっこクラブ」が町にとってどんな場所になるとよいかを、地元在住メンバーの岡をはじめ、住民のみなさんと話し合いました。そして第2回は、沖縄から対話工房に参加しているティトス・リプリーを案内役に、紙製の空飛ぶランタンづくりに挑戦。地元の子どもたちも参加し、未来への想いを書き添えたランタンを夜空に飛ばすひとときを過ごしました。

 

「おちゃっこクラブ」は現在、岡夫妻がコミュニティカフェとしてきりもりを始めています。ここをより魅力的な集いの場にできたらと、お店の一角に手づくりのギャラリースペースも作ろうということになりました。そこで今回のワークショップでは、大工仕事をしながらギャラリーのための壁を皆でつくりあげることに挑戦します。

photo by Toshie Kusamoto
photo by Toshie Kusamoto

 

ひとつずつ、すこしずつ組み上がる新しい場所

 

朝10時からはじまったワークショップ。今回は体を使った大工仕事なので、まずはラジオ体操で手足をほぐします。1日目の目標は、ギャラリー空間のために、お店の半分弱の内壁へベニヤの下地を貼付けるところまで。進行役は対話工房の海子と小山田がつとめます。建築家の海子は、岡店長が津波の前に女川港で開いていたお店「ダイヤモンドヘッド」の内装設計も手がけました。小山田は各地でコミュニティづくりの経験から、大工仕事はお手のもの?

 

頼りになるといえば、忘れてはならないのが、岡の息子で小学生の鈴之助くん。最近、秘密基地づくりに凝っている彼は、大工仕事にも興味津々です。やはり女川出身で、いまは石巻で高校の美術講師をつとめる梶原さんも参加してくれました。彼女は、高校生たちと一緒につくった表札を仮設住宅の方々に贈る取り組みもしているかた(詳細はこちら)。ほか、メンバーの知人からも、海子の旧友・金野さんや、相澤の建築家仲間・友寄さんらが合流。国際交流基金の研究員として日本のコミュニティとアートの関係を調査するため訪れたキース・ウィットルさんも、気づけばのこぎりを手に取ってくれていました。

 

まずは、壁にある2つの窓をふさぎます。結露防止のスタイロフォームを窓のサイズに上手く切り貼りする作業では、対話工房の渡邉が奮闘。デザイナーの彼にとって、定規とカッターは慣れ親しんだトモダチ? 下地作業も同時進行します。既存の壁に木材で格子状に骨組みを組んだうえで、そこに板を貼り込んでいくことにしました。対話工房の映像担当・泉山も、かつて美術展設営を手伝ってきた腕前を発揮。測量ツールさばきも堂に入っている彼と小山田には、さっそく「棟梁」のあだながつきました。

photo by Toshie Kusamoto
photo by Toshie Kusamoto

骨組みの木材は、のこぎりで長さを揃えます。このあたりからは、参加者のみなさんで一緒に作業。対話工房の女性陣、建築家の相澤と写真家の草元も参戦します。ふだん編集・ライター業の内田は手先が不器用なので…鈴之助君にも手伝ってもらったりしながらの作業です。

 

切り揃えた木材は、噛み合わせ部をノミで抜き落とします。ここで鈴之助くん大活躍。スコーンスコーンと木材にノミが入るのが気持ち良いのか、「いくよ?いくよ〜!」と元気よく声を上げながら次々と仕上げてくれました。端材も集めていたので、秘密基地に使うのかもしれません。

 

途中、「おちゃっこクラブ」の名物、岡ママ自慢のナポリタンや、外で焼いた石焼き芋をほおばりながら休憩。近くの工業高校で作ったものを譲ってもらったという鉄製焼き釜のふたを開けると、モクモクと煙があがり、その向こうから仙人(?)のように岡が芋を差し出してくれました。まだ寒い1月の女川町。高台から冬の海を眺める参加者の想いはそれぞれだったと思いますが、暖かい焼き釜を囲んでの休憩はほっとするひとときでした。

 

photo by Toshie Kusamoto
photo by Toshie Kusamoto

 

それぞれの郷土料理を持ち寄っての夕食会

 

美味しい食事で元気を補給しながら、作業は続きます。枠組みの木材は、既存の壁の支柱部分を探りながら打ち付けていきました。切っている最中にはわからなかったのですが、それぞれの長さの木材に、それぞれの場所と役割があります。すべてがうまく組合わさることで、新たな壁のための頑丈な枠組みができあがりました。

 

そしていよいよ、この日最後の作業。ベニヤ板を貼っていきます。畳一枚ほどのサイズのベニヤ板を、どう切り出し、組み合わせればシンプルに全面を覆えるか、現場の試行錯誤も交えつつ決めていきます。電動ドライバーの音が響き、ラストスパート。そしてついに完成です!(といってもまだ下地ですが)。この日の作業はひとまずここまで。

 

そのまま「おちゃっこクラブ」で夕食が始まりました。この日のもうひとつのお楽しみ、それは対話工房メンバーそれぞれが、故郷の名物料理を持ち込むご飯会です。宮城の名取市に住む海子は、お手製のセリのおひたしを。渡邉は仙台在住ですが、実家・栃木の名物「しもつかれ」をお母さんの手づくりで持参。また別府出身の草本は「だんご汁」を、高校生まで沖縄ですごした内田は、お麩(ふ)の炒め物「フーチャンプルー」をふるまいました。

 

photo by Toshie Kusamoto
photo by Toshie Kusamoto

夕食会には、女川町復興連絡協議会の鈴木敬幸さんをはじめ、新たに地元の方々がいらしてくれました。なかには手づくりのシフォンケーキを持ってきて下さるという、嬉しい飛び入り参加も。えずこホール(仙南芸術文化ホール)のスタッフの方や、ドイツ大使館の震災支援担当官・ライナー・シュルツさんなど、対話工房の活動に協力してくださる人々もそれぞれのお仕事の合間に合流。話がはずみ、岡一家は特製ハイボールほか、飲み物の用意に大忙しです。

 

ベニヤで覆われた作業途中の「おちゃっこクラブ」で、大所帯の家族の食卓のようなひととき。「おちゃっこクラブ」の新メニューを考える、というもうひとつの目的もあってのこの試み、もしかしたら、ここから新たな名物のアイデアが生まれるかもしれません。

 

アイデアといえば、この夜の語らいの中から、夏には女川で「一夜の小さな火を灯そう」という話が持ち上がりました。その後、この案は実現に向けて動きだしています(詳細はまたこのサイトでご報告します)。コミュニケ-ションを大切な軸にする対話工房として、こうした自然な語らいから次の活動のきっかけが生まれたのも、嬉しい出来事でした。

 

翌日は今回の仕上げ作業。ここまでのテキスト担当・内田は残念ながら翌朝移動してしまったので、以降は海子さん、お願いします!

 

翌日、下地壁の仕上げへ

(2日目):海子 揮一

 

photo by Toshie Kusamoto
photo by Toshie Kusamoto

次の日の朝、宿泊先の「華夕美」で二手にわかれた対話工房チーム。作業班である小山田・泉山・海子、そして金野さんの4人は朝9時におちゃっこクラブに到着しました。この日は雪が薄っすらと被災した町を覆い、高台から眺める女川湾はとりわけ美しく、作業が始まる前の静かな現場の空気には厳かな気配すら漂っていました。


平日であるため、特に参加者の募集は予定しておらず、対話工房メンバーだけでこの日の作業を進めました。前日に下地のコンパネ張りまで進むことができたので、「棟梁」の小山田と泉山の二人で作業のほとんどをこなすことができました。作業は塗装の仕上げの下地となる石膏ボード(石膏を紙でサンドイッチした一般的な建材)をギャラリーの壁一面にビスで張っていくものです。こういった作業全般に言えることですが、下地づくりの出来不出来によってその後の工程の作業は大きく影響されます。専門の職人が何気なく当たり前にしていることなので、仕上がった一枚の壁からはイメージできないかもしれません。自分たちでこの作業をやるにはいくつかのコツと道具が必要ですが、完成までのプロセスを知ることは「場」を自分の手で獲得していける自信へとつながります。

 

作業は極めて順調に進み、午前中でそのすべての工程を終えることができました。出来上がってみればそこに3つの窓があったことすら忘れてしまうようで、壁がもつ安心感と、断熱材を入れたことで部屋が格段に暖かくなりました。

 

翌月の第4回ワークショップでは、いよいよ仕上げとして白いペンキと、一部には女川の海の水からつくった「灯台しっくい」をみんなの手で塗っていく予定です。とても完成が楽しみです。

[今回の壁作りに使った道具たち]※左から

差し金、のこぎり、のみ、水準器、ボード用カンナ、クランプ、かんな、ドライバ、玄能(金槌)、ボード用やすり、コンベックス、電動丸鋸、えんぴつ、下げ振り、カッターナイフ、チョークライン、充電式電動インパクトドライバー、養生テープ、引き回し鋸、ネイルハンマー

 

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コメント: 1
  • #1

    金野 (月曜日, 30 4月 2012 23:37)

    第3回ワークショップにお邪魔した海子氏の旧友・金野です。神奈川・川崎から参戦?したものの、どちらかというと足手纏いだったような気がしますが(苦笑)、2日間、初めて行った女川で対話工房の皆様、並びに女川の皆様のお陰で気持ち良く過ごすことが出来ました。だいぶ遅くなりましたが、改めてお礼申し上げます。

    あれから約3が月経ちましたが、女川の印象は今も強く残っています。率直に言えば、何で今まで行かなかったのだろう?と。市街地は津波にすべて持っていかれてしまったけど、お会いした人たちが皆魅力的だったことと、2日目にひとり市街地をひとり歩いて、女川がたいへん魅力的な街であることを確信しました。旅人的直観に過ぎませんが。

    元来がマイペースで気まぐれな旅人体質なのと、アート的素養が皆無なので対話工房のプロジェクトそのものには私はあまり役に立てそうもありませんが、それでも女川を初め、宮城や岩手の縁ある土地に関しては、今後も関わりを持ち続けようと思います。私もルーツは東北ですし。

    お粗末ながら、そのときのことを拙ブログに記しています。ささやかですが、対話工房・女川のことに興味をもってくれる人が一人でも増えればいいな、と。

    夏くらいに再訪したく思っています。
    そのときにまた皆様にお会い出来たら。

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