【活動報告】コミュニティカフェプロジェクト 第4回ワークショップ

文・写真:海子揮一

 

コミュニティカフェプロジェクトの第4回となるワークショップ「カフェづくり× つくる・きく・はなす」後編が2月19日に開かれました。参加者と共に前回のワークショップで製作されたギャラリーの壁のペンキ仕上げと、店内の壁の一部を「灯台しっくい」で仕上げました。

職人さんと下地作り

今回、特別講師として塗装職人の太宰聖一さんをお迎えしました。太宰さんはお父さんから伝えられた灯台の為の石灰塗料の技術を受け継いでいる方で、ワークショップの日に実際に材料を調合し、参加者への塗り方の指導の為にお招きしました。

石灰を塗るための自作のハケ
石灰を塗るための自作のハケ

前日の18日、太宰さんの協力の元で、対話工房のメンバーである小山田・海子と共に下地作りとなる「パテかい」作業を行いました。おちゃっこクラブが通常営業の日のため、来店したお客さんの視線を感じながらの作業。普段は黙々と建築現場で孤独な作業が多い太宰さんにとっては、少し緊張する時間だったようです。パテ作業にはメンバーの岡と息子の鈴之助くんも参加。時には代替バスの出発を待っていた若者も加わって少しずつ進んで行きました。夜には力強い助っ人も現れました。大阪から車で駆けつけてくれた白石さんは内装業が本職。慣れた手つきで持参した道具を自在に操り、作業が俄然スピードアップ。まさに下地作りの救世主でした。

 

灯台しっくいをつくる

ワークショップ当日の朝、太宰さんはおちゃっこクラブの脇にある空き地にドラム缶と海水の入ったタンクを運びこみました。「灯台しっくい」の調合の始まりです。石灰石と海水を混ぜ合わせると反応して高温の熱が発生します。その温度は200度近く。大量の水蒸気が立ち上る中、太宰さんは真っ白になりながら撹拌を続けました。さらに膠やスサ、砂を加えて、温度が冷めれば「灯台しっくい」の完成です。 

この「灯台しっくい」の元は太宰さんのお父さんが若かりし頃、第二管区海上保安庁の仕事で東北各地沿岸にある灯台を塗り替える仕事の中で身に付けた技術でした。20代だったお父さんは石灰石と道具だけを持ち歩き、各地で人足を集め、断崖絶壁の上にある灯台でもロープに吊られながら上から下へと上下を繰り返して灯台を塗りあげていったそうです。現代では合成樹脂の塗料が主流となり、危険度も労力もはるかに改善され、この「灯台しっくい」の技術とエピソードは忘れ去られようとしています。しかし、実際に材料を作り、材料に触れて手を動かすことで、新しい物語を加えて未来へと引き継がれていく可能性が生まれるのです。それは津波によってモノとの関係を断たれてしまった人々にとって、もう一度新たに関係性を築いていく大事なステップとなると考えています。

いよいよ壁塗り

材料が冷えて、壁塗りができる準備が整いました。子供も大人も壁塗りの上ではどちらも初体験。塗り方も道具もそれぞれ自由。子供たちも最初はなれない作業に集中できずに漫然と壁に塗りつけているだけでしたが、やがて独自の塗り方を発見して、緻密に平らにしていく子、大胆に仕上げていく子、大人顔負けのコテさばきを見せる子など個性がそのまま壁に転写されていきした。けっして楽な作業ではありませんでしたが、夕方までにはカフェの間仕切り部分の壁が仕上がりました。完成した壁をみると実に表情が豊かなものになっています。彼らが成長して大人になるころにはこの仮設カフェは残っていないかもしれないけれど、きっとこの日の作業の思い出は忘れないことでしょう。

新しい記憶を壁に塗りこむ

自分の手を動かした後が形となる。たとえそれが整っていなくとも、記憶や想いという表現を受け止める場がまだまだ足りないことを実感します。特に仮設暮らしを余儀なくされている人々にとっては、いずれまた転居を迫られるまでの仮の関係性でしかない、と虚しさが入り混じった暮らしであるかもしれません。

しかしモノの寿命と人の関わりや出会いというのは必ずしも比例しない気がします。

震災後、女川に関わるきっかけとなった、私の設計したカフェ「ダイヤモンドヘッド」は5年に満たずに流されてしまいました。その5年に満たない月日の間にそのお店を取り巻いていた人々の輪や、たくさんのエピソードを被災後の今でも女川で会う人からたびたび耳にすることがあります。その記憶と人のつながりが対話の場を再び求め、今のおちゃっこクラブを立ち上げる原動力になったと聞いています。

かつてのダイヤモンドヘッドの内装は同じ灯台しっくいで仕上げられていました。講師の太宰さんは、実際にその工事を担当した方でもあるのです。今回のワークショップで目指したものは、女川の人々の核となっていた場のひとつの再現であると共に、これからの5年、おちゃっこクラブが新しく人のつながりと記憶を生み出していくという物語のはじまりでもあるのです。

ゆえにプレハブでありながら、これは「仮設ではない」という宣言でもあるのです。


ギャラリーの壁のペンキも19日中に仕上げることができました。滑らかな壁の仕上がりも上々です。今後は更にスポットライト照明も増設し、女川の今を映す表現と対話の場として活用してもらうように準備していく予定です。

 

おちゃっこクラブにお越しの際にはギャラリーの展示中の作品と共に、「灯台しっくい」の壁もぜひ着目してみてください。

 


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